クラヴマガは1940年代にイスラエル国防軍(IDF)で開発された接近格闘術です。戦火の絶えないイスラエルでは男女ともに徴兵制度があり、性別や体格を問わず短い訓練期間で実戦で使える格闘術が必要でした。そこで生まれたのがクラヴマガです。
クラヴマガは実戦的で誰もが速習できる点が高く評価され、米国FBIやSWAT、その他各国の軍や警察でも導入され、今日では日本の警察や自衛隊も技術を採用しています。
2002年の日本への上陸以降、マガジムを始めとしたクラヴマガのジムや教室は全国各地に徐々に増え、今やクラヴマガは国内で最も有名な護身術のひとつです。
クラヴマガはハンガリー生まれのユダヤ人 イミ・リヒテンフェルドが開発したといわれています。
警察官の父を持ち運動神経が万能だったイミは、レスリングやボクシングでチャンピオンになるほどの腕前でした。
1930年代半ばにブラチスラバでのユダヤ人排斥運動が高まり、イミらのユダヤ人グループが迫害に対抗しました。
これらの暴動を通じイミは、ボクシングやレスリングは競技としては優れているものの、ストリートファイトでは十分ではないと痛感し、格闘技の中で実戦で使えるものだけを体系化しました。
それが後のクラヴマガの原型です。その後イスラエルに渡ったイミはイスラエル国防軍の教官となり、クラヴマガを軍の格闘術として確立させることに寄与しました。
格闘技はルールのある競技です。グローブを着用し、同じ性別の体重の近い相手と、公平な条件で戦いは始まります。
股間や目など急所への攻撃は禁止されているため、ある程度安全な環境で勝敗を争います。つまり、格闘技は公平な条件下で相手に勝つことが目的です。
一方クラヴマガの条件や目的は、まったく異なります。
想定するのは例えばこんな条件です。
大男が夜道で突然小柄な女性を刃物で脅す
エレベーターで背後から複数人に襲われる
性別も体格も違い、相手は武器をもち複数人かもしれないような、不意に訪れる不利な状態です。そこから身を守り逃げることがクラヴマガの目的で、相手に勝つ必要はありません。
技術だけをとればクラヴマガと格闘技には多くの共通点がありますが、条件や目的が大きく違うのです。
護身術という言葉から多くの方が連想されるのは合気道かもしれません。柔道も警察が取り入れているため、護身術のイメージを持っている方もいると思います。
しかし、これらは護身術でありながらも武道であり、護身以外の要素も多分に含まれています。精神修行や礼法を重視していることはもちろん、初心者はひたすら基礎鍛錬を繰り返すことが求められ、長年の修業の後に実戦に耐えうる護身能力が身につきます。
クラヴマガのアプローチは異なります。他の武道同様、基本は大切にしますが、初回から「正面から首を絞められたら」「ナイフで脅されたら」といった危険を想定したシナリオトレーニングを行います。
そこにカタや儀礼はなく、まずシナリオごとに体系化された護身の基本動作を繰り返し練習します。
次に2人1組で対人練習を行います。そこで上手く技ができなくても、それ以上にアグレッシブに相手に立ち向かう姿勢を重要視します。
誤解を恐れず言うのであれば、仮に少々下手であっても、危険に対しするアグレッシブさが弱点をカバーし、問題を解決するというアプローチがクラヴマガです。そこは武道がルーツの護身術とは大きく異なります。
その結果、クラヴマガは他の護身術と比較すると性別や年齢、体格を問わず誰でも短期間で実戦に使える護身術が身につけやすいと言われています。
クラヴマガは、護身術の習得に興味があればどなたにとっても有益ですが、型や儀礼を取り払い、比較的短期間で習得したい人や自信を高めたい人に特におすすめです。
ただしどんな危険も解決できる力を短期間で与えてくれる魔法ではありません。
自分にとって本当に起きうる危険はどんなことか、それに遭遇した場合どんな能力が必要かを現実的に考えることが大切です。最初からすべてを求めるのではなく自分にとって必要な力の習得にフォーカスすることが実戦的であり、そういう思考を持たれる方に向いています。
クラヴマガのテクニックの特徴について解説します。
なぜクラヴマガでは短期間で実戦的な護身の技が身につきやすいのでしょう。秘密は条件反射の動きを利用していることにあります。
人は突然襲われるとパニック状態になり、思考は停止します。覚えていたはずの護身の技も、実際の危険で何の役にも立たないかもしれません。
しかしクラヴマガの護身の初動には、人間が本能的に備えている条件反射の動きが活用されています。
条件反射は考えなくても本能から自然に出る動きですので、パニック下にあっても再現されやすいことが、誰でもクラヴマガを身につけやすくしている理由の一つです。
さらなる秘訣はクラヴマガのこんなトレーニング方法にあります。
「暗闇で爆音の中、首を絞められる」
「全力で打撃をしてる中、羽交い絞めされる」
疑似的にパニック状態を作り、そこから護身を繰り返すことで、頭でなくカラダが動きを記憶し危険時の再現性が高まります。突然のストレスに対し、カラダに正しい反応を覚えこませる作業がクラヴマガのトレーニングなのです。
世界の他の護身術と比較しても、クラヴマガは大変アグレッシブです。突然の危険から逃れるには、ゼロから100にスイッチをいれて相手に全力で抵抗し、反撃を加えて無力化して逃げる時間をつくるというコンセプトです。
技ひとつひとつも難解な動きは含まれず、極めてシンプルです。
仮に技術が正確でなかったり体格が相手より劣ったとしても、アグレッシブな姿勢があなたを救います。クラヴマガは技の正確性に時間を費やしすぎるより、シンプルな技をアグレッシブに発揮する訓練を積むのが実戦的だと考えます。ストレス下に置かれたときに、汚くても技をアグレッシブに出せることが大切です。
反撃のターゲットが相手の急所であることは重要です。中途半端な反撃は、相手を逆上させるだけになりかねません。
急所とは股間・喉もと・眼など、いくら屈強な人であっても鍛えられず痛みに耐えがたい箇所を指します。
仮に体格の小さい女性であっても、急所に有効な攻撃ができれば相手は一瞬無力化するのでその時逃げるのです。逆にいえば相手を無力化できないと、逃げたところでまた追いつかれて次なる危険が発生します。
クラヴマガの多くのテクニックに言えることは「危険の解除と反撃を同時に行う」ことです。
危険解除と反撃を同時に行うようカラダに覚えこませる理由は
クラヴマガはイスラエル軍をはじめ世界各国の軍や警察の日々の任務遂行のために使われています。
その結果現場のオペレーター達から、どのテクニックが使えてどのテクニックは改善すべきかフィードバックが寄せられます。
それを受けたインストラクターは、問題を解決すべくクラヴマガの改善をはかります。これがクラヴマガの進化のプロセスです。
以下の記事で紹介するアヴィ・ナルディアもその中の一人であり、クラヴマガの進化に貢献してきました。
世界で進化・改善を繰り返してきたクラヴマガが実戦的であることに疑いの余地はありません。
クラヴマガのトレーニングによる嬉しい効能は、動けるカラダと強いココロが手に入ることです。
実戦を徹底的に意識したクラヴマガのトレーニングは、様々な危険を想定しています。たとえヘトヘトに消耗しきった状況でも、助かるためには諦めずに抵抗し、相手を圧倒する必要があります。そのため例えばパンチやキックでは、第三者に邪魔をされたとしても、動じることなく100パーセントの力で撃ち続けることが求められます。
こんなトレーニングは実戦に役立つのはもちろん、カラダを鍛え、スタミナをつけ、メンタルを強化するために驚くほど効果的です。いざというときに動けるカラダと強いココロが無ければ、技術だけ習っても実戦では使えません。
24時間ジムに通っているけど黙々と走るのはもう飽きた、筋トレもひとりだとなかなか続かないという方は、楽しく続けられる新たなものを探しているかもしれません。
そんな方にとって、新しく常に刺激に満ちたクラヴマガはぴったりです。
多くのクラヴマガのインストラクターは追い込みの達人です。インストラクターに程よく追い込まれ励まされながらトレーニングに取り組むと、自然と過去の限界を越えて頑張れるものです。一人で黙々やるよりも飛躍的にパフォーマンスは向上します。
クラヴマガトレーニングは、実戦に使えるダイナミックな運動を通じて、筋力、瞬発力、スタミナを養うことにフォーカスします。その結果、日常生活で役立つ「動けるカラダ」が手に入り、運動や身体づくりへの関心がより高まり、自信は向上するでしょう。
「クラヴマガ」という言葉は「柔道」や「空手」と同様に、格闘術の名称(=普通名詞)であり、どこか特定のジム名やサービス名を指すもの(=固有名詞)ではありません。
「クラヴマガ」は普通名詞ですが、「クラヴマガ」を習えるジムの「マガジム」は固有名詞です。
身体を動かすスポーツという意味で広く言えば「サッカー」や「野球」のような競技名だとお考え下さい。
クラヴマガを英文表記すると「Krav Maga」。「Krav」はヘブライ語で「戦闘」の意味、「Maga」は「近接・接触」の意味を持ちます。
つまり「近接戦闘術」という意味をもつヘブライ語です。英語にすると「Contact Combat」です。
「Krav Maga」をカタカナ表記する方法として「クラヴマガ」と「クラブマガ」の2つが存在しますが、アルファベット「V」はカナ表記すると「ヴ」が近いので、今日では「クラヴマガ」が日本語表記として採用されています。
一方で日本語で音だけ聞くと「クラブ・マガ」というクラブがあると勘違いされている方が多いのも事実です。その結果か日本ではクラヴマガを略して「マガ」と呼ぶ方が多くいます。
一方でアメリカなどの英語圏ではクラヴマガは「Krav」と略して呼ばれることは多くあっても、「Maga」と呼ばれることはあまりありません。国によって略称が異なるのも興味深い事実です。
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クラヴマガは、性別や年齢を問わず、誰でも短期間で効率的に習得できる護身術です。現実に起こり得る危険から身を守るための技術や体力を養います。ストリートファイトで使えるものであれば、キックボクシングやブラジリアン柔術など、あらゆる格闘技のテクニックを参考にし、取り入れています。競技としての専門性はありませんが、実際の状況での対応能力に優れています。
クラヴマガを習う最大のメリットは、危険時に身を守る技術が得られることです。さらに、トレーニングを通じて機能的で機動的な肉体が手に入り、ボディメイクやダイエットにも適しています。また、達成感やストレス発散、強靭な精神力の強化など、メンタルヘルスの向上にも役立ちます。これらの効果により、生活の質が全般的に向上します。
クラヴマガは格闘技や運動初心者でも安心して始められるカリキュラムが用意されています。初級・中級レベルでは基礎固めを重視し、運動強度も適切に調整されています。上級レベルではスパーリングも含まれますが、しっかりと準備を整えることで怪我のリスクを低く抑えることができます。