護身術とは
2020.10.15
護身術の意味するものはとても広範で、単に技のことだけに限定した言葉ではありません。日本だけでなく、海外における護身術まで含めると、護身術が意味する内容は相当広がります。
ここでは、護身術の定義について解説したのち、マガジムインストラクターによる護身術解説動画「How to 護身術」の最新動画をご紹介いたします。
護身術という言葉をざっくりと定義すると、「自分や家族の身体または財産に危害を加えようとする第三者から身を守り、 怪我を負うことなく危険から逃れるための対策およびその方法」です。 ここではそれを、フィジカル(身体面)の護身術と、メンタル(心構え)の護身術に分けて、触れていきたいと思います。
フィジカルの護身術とは、何者かによって突然暴力を奮われたり襲われたりした場合に、それに立ち向かうために五体全てを使って抵抗し、 時には相手に適度な攻撃を加えて、危険から逃れる方法です。
冒頭に述べた「道着を着た人がひねりあげている」シーンもその中の一つですが、逃げるためには相手を殴る・蹴るといった行為まで必要になることもありえます。
また我が国では規制が厳しいものの、海外では護身のために武器を保持することが認められている国もあります。
ですので、フィジカルの護身術も細かく言えば、自分が丸腰(何も持っていない)の場合と、何らかの武器を持っている場合に分けることができます。
知らない人が胸倉を掴んできた、抱きついてきた、殴りかかってきた、場合によっては首を絞めて殺意を示してきたなどなど。 自分が何も準備や覚悟ができていない時に、突然このような危険にさらされてしまったらどのように対処すればいいのでしょう。
何の前触れもなく突然襲われてしまうような、突発性の高いトラブルもあり得ますが、 一方で、事前に何らかの揉め事があり、それが段階的にエスカレートして暴力沙汰に至ることもあり得ます。
後者の場合は、言い争いレベルの問題をそれ以上エスカレートさせないことが、何と言っても最善です。 自分に正当性が高い場合であっても、相手とフィジカルの接触がある限り、身体的にも法的にも何らかのリスクが発生する可能性があります。
相手としっかり距離を保ち、争う意思は自分に無いことをはっきり示したり、周囲に助けを呼ぶなどしてフィジカルの接触を避けようとすることは、状況が許すのであればまず真っ先に取るべき護身方法です。
それでもエスカレートを止められず、相手が掴んできた場合、殴りかかってきた場合、蹴ってきた場合。 または突然暴力をふるわれた場合。それらに対しては、格闘技や武道にもあるような、離脱や防御の有効な手段が存在します。 それを使って脅威を取り除くことが、フィジカル面での護身術でまず真っ先にとる初動です(=危険の解除)。
しかし一旦危険が取り除けた(例えば殴りかかられたときにそれをブロックしたりよけた)からといって、相手は自分への攻撃を諦めてくれるのでしょうか。
答えはおそらくノー。危害を加える側は、いったんエスカレートして暴力行為に出た以上、すでに「スイッチ」が入っています。 一度や二度よけられたり少し距離がとれたとしても、それで諦めると考えるのは楽観的であり、現実的にはむしろ、 繰り返し攻撃してくる可能性が高いと想定しておくべきでしょう。(もちろん相手がエスカレートしていなければ、諦めてくれることもあります。)
それでも助かるためにはどうしたいいのでしょう?一つはとにかく逃げ足を早くすること。 さらに持久力もつけ、走って逃げ切る体力をつけることでしょう。それができればベストかもしれません。
ただ、相手の不意をついて逃げ切るまでのスプリント力をつけることは簡単ではありません。 仮につけれたとしても、滑りやすかったりヒールのある靴を履いていて、速く走れないかもしれません。 また、襲われた動揺から、普段以上に息が切れ、追いつかれてしまうかもしれません。逃げる前にしておかなければならないことがあるのです。
危険解除の次は、相応な攻撃を相手に加えることです。それによって逃げるために必要な時間を稼ぐことができるのです。 ただし誤解が無いようお伝えしますが、決して相手に攻撃を加えることを推奨しているわけではありません。 攻撃することなく危険から逃れられるのであればそれが一番ですが、危険に急迫性が高く他に選択肢が無い場合は、防御のための手段として攻撃もしなければいけません(※)。
危険を解除したと同時または直後に、相手の急所に攻撃を加えれば、相手はその痛みから必ず何らかの反応をします。 急所とは、「鍛えたくても鍛えられない箇所」、であり「衝撃を加えられると、誰であっても相当な痛みが生じる箇所」です。 具体的には眼球、鼻、喉、股間、膝の関節などであり、ここに攻撃を受けると、たとえ屈強な男性であっても本能的に、 涙が出て周囲が見えなくなったり、息苦しくなったり、うずくまったりする反応をとります。
こうして相手が一瞬でも無力化したスキに全力で離れ、周囲に助けを求める。これはたとえ女性であったとしても、効果的な方法を事前に習得していれば、十分できることです。
(※)法律でいうところの正当防衛の範囲内における攻撃、すなわち急迫不正の侵害に対して予想される危害から自らを守るために必要な範囲の攻撃であることを意味します。 相手の襲撃の意図が明確でないときに先制攻撃をしたり、これ以上襲う意思が無いのに重ねて攻撃を加えることは過剰防衛であり、決して行ってはいけません。
この方法自体がフィジカル面での護身術。多くの護身術では、現実的に起こりうる危険を想定し、この危険の場合はどう動くかといった、シナリオ別に一連の動作をカラダで覚えこませるようなトレーニングを実施しています。
護身術と一口でいっても様々で、前述の打撃を加えること自体にネガティブな考え方もあります。 「攻撃を加えると相手が逆上する」「小さい女性が打撃をするなんて非現実的」「そもそも殴ったり蹴ったりすることが嫌」などなど。
確かに、相手に打撃を加えれば状況をエスカレートさせる可能性が高いので、決して不用意に攻撃的なことをしてはいけません。 そのリスク無しに危険から逃れられるのが一番です。そこで、打撃の代わりに相手の関節を極めるなどして相手を制圧する、またはエスカレートを防ぐという方法も護身術として考えられます。
ただ、この方法がすべての危険に対して通用するかといえば疑問です。 相手がエスカレートする前の軽い揉め事であれば機能するかもしれませんが、相手が全力で襲い掛かってきているような、 すでにエスカレートした状況(=急迫性の高い危険、法的には「急迫不正の侵害」と言います)下ではどうでしょうか。
その状況で制圧しようとしても、相手との体格差がある場合も考えれば、抵抗される力は並大抵ではありません。 関節を極めて相手を無力化するには、最低でも数年の修練を積んだ達人の域にでも達していない限り、まず難しいでしょう。
仮にある程度制圧ができたとしても、相手が刃物を隠し持っていれば、制圧していること(=相手と密着している)自体がリスクとなってしまいます。 さらには相手が複数いる場合なども考えると、制圧だけを唯一の選択肢として考えるのは、お勧めはできません。
世界と比べれば安全と言われている我が国であっても、命にかかわるような危険も含めて想定しておくのであれば、 制圧だけに頼らず、相手への攻撃を伴った護身の方法も選択肢に入れ、身につけておく必要があるでしょう。
海外のウェブサイトで護身術(=Self Defense)の意味を調べると、 Unarmed(自分が武器を持っていない場合)とArmed(自分が武器を持っている場合、武装している場合)に分かれて記載されています。
護身術を考えるうえで、日本の一般感覚では「自分が武装している場合」を想定することは稀ですね。
しかし現実には一般市民であっても銃の保持が広く認められている国が世界には存在します。 自宅で保持することだけが認められたり、携帯して外出することまで許されたりと、規制は場所によって異なりますが、 そういう場所での犯罪には、銃器が使われることが多いのもまた事実。
そんな中で身を守るためには、自らも銃を持ち、場合によっては相手を撃ってでも護身をしなければいけないこともあるのです。 護身術といっても国によってその意味する範囲が本当に異なることに驚かれることでしょう。
ちなみに日本においても護身のための防犯グッズを持つことが一部許されているものの、攻撃性のある武器を正当な理由なく持ち歩くことは禁止されています。 代わりにいくつかの護身術では、日ごろ携帯しているカバンやペン、キーケースなどを護身目的で使用する方法を教えています。
フィジカル面での護身術が、こういう危険が生じた場合にどのように動くかといった身体動作について扱っている一方で、 メンタル面での護身術とは、危険に対する意識や、直面したときに必要な心構えを言います。
犯罪者になぜこの人をターゲットとして狙ったのか、その理由を聞いたときに返ってくる答えは何でしょう。
「自分より弱そうで、簡単な相手だと思ったから。」
危害を加えようとする者は、自分が優位に立てると思う対象、具体的には体格が小さかったり体力がなさそうだったり、泥酔状態にある人などを狙うことが多いといわれています。 複数で背後から急に襲うのも、自分にとって有利な状況を作るための有効な手段です。
襲撃者は特別な理由でもない限り、自分より強そうな相手を狙おうとは思いませんから当たり前といえば当たり前ですが、この心理をよく理解し、逆説的に対策を考えておく必要があります。
心配そうにオドオドしながら歩いているだけで、ターゲットになる確率を高めてしまうかもしれません。 人通りの無い夜道を選べば、不利な状況を自ら生み出しているのと同じです。携帯電話でしゃべりながら歩いていては、周囲の気配を感じることはできません。
犯罪を犯すような者から見て、ターゲットになりやすい不利な状況は決して自分から作らず、未然に危険を回避する。これこそが護身の中で最も初歩的で大切な心構えでしょう。
補足ですが、「護身術を身につけることによって自信がつき、以前のようにオドオドして夜道を歩くことが無くなった」といった声を伺うことがあります。
過剰な自信は油断を生んだり誤った判断につながるのでいけません。 しかし護身術の習得を通じて正しい心構えが身に付き、気持ちに余裕ができることで、襲撃のターゲットになる確率が減ることもあります。護身術を習得することの副次的な効果は、いろいろあるのです。
仮に危害を加えられそうになった時だとしても、毅然とした言葉と態度で「やめてください」と意思表示をしたり、大声で周囲に助けを求めたり、 場合によってはこちらが悪くなかったとしても謝ることで相手の暴力行為を防ぐことができるのであれば、それはとてもいい護身手段です。
たとえ金銭を要求されたとしても、渡せば危害を受けずに済むと判断される場合であれば、素早く渡すことが護身かもしれません。 (もちろん金銭や財産等、そこから失うものがあればそれとのバランスにもよりますが、そういう判断は十分ありうると思われます。)
フィジカルの護身術が印象的であるため、肉体的に抵抗することこそが護身術と思われるかもしれませんが、決してそんなことはありません。 自らが何も手を出すこと無く、相手の攻撃する意思を喪失させることができるのであれば、それが最も賢明な護身術です。
今度は一転して、すでに相手が全力で襲い掛かっているような、急迫不正の侵害を受けているシーンを想定してください。 人間は、命にかかわるような脅威に晒されると、たとえいくら優れた護身術のテクニックを習っていたとしてもパニック状態に陥り思考は停止し、動くことすらできなくなってしまうものです。
ではどうすれば、身につけた護身術を実戦で使うことができるのでしょうか。
それは、タフで粘り強い精神力、具体的には絶対に助かると決めた以上は瞬時に自らのスイッチを入れ、あきらめることなく最後まで抵抗し続ける強いメンタルを養うことです。 せっかく学んだ護身術であっても、それを実戦で機能させるためにはメンタルの強化が不可欠です。
ですので、メンタルを扱わずフィジカルばかりトレーニングしている護身術は、あまり現実的とは言えません。 強い肉体と優れた技術に加え、どんな障害があっても決して諦めない強靭な精神力を同時に鍛えることが、 最終段階、すなわちもうやるしか無い状況に陥ったときに必要な、メンタル面での護身術です。
フィジカル・メンタル両面での護身術について記載致しましたが、 ここまで読まれるとあたかも小柄な女性を含めた肉体的弱者ばかりが襲われる可能性があるようにも感じられるかもしれませんが、決してそれだけではありません。
強そうに見える屈強な男性であっても、襲撃を受ける可能性は十分あり得ます。現に昔、我が国でも著名な格闘家の方が刃物で刺された事件があったことを覚えていらっしゃる方は多いでしょう。
たとえ襲撃者が小さかったり肉体的に優れていなかったとしても、もし殺意をもって本気で襲ってきたら、そこに肉体差などは関係ありません。 油断をしたり気持ちで負けてしまえば、屈強な格闘家であっても重篤な怪我を負ってしまうのです。
体格に優れた男性であったとしても、フィジカル・メンタルともに万が一の危険に備えた護身術を身につけることは、とても意味あることなのです。
今度は護身術を格闘技と比較することで、違った角度から「護身術とは何か」についてお伝えします。
マガジムの見学にいらっしゃる方や電話で問合せを下さる方から、「護身術は格闘技と何が違うのですか?」という質問を受けることがあります。 そういう時は決まって、「護身術は格闘技と技術的に共通している点は多くありますが、想定している前提や目的が異なります」とお答えしています。
格闘技は、一定のルールの中で勝ち負けを争う競技であり、「相手に勝つこと」が目的です。 例えばボクシングやキックボクシングでは所定のルールの中で相手をノックアウトすれば勝ち、寝技格闘技であるブラジリアン柔術では相手から一本取れば勝ち、といった具合です。
一方で護身術は相手に勝つ必要がありません。路上で賊が金品目的で襲いかかってきた場合であっても、 自分や家族の身を(または財産を)守ること、怪我をしないことが護身術の唯一の目的です。 賊をノックアウトしたり取り押えることは目的ではなく、危険から逃げるだけの時間を稼ぐことができればいいのです。
競技性のある格闘技は、自分も相手も条件が一緒です。 ボクシングであればリングの中央でゴングが鳴って相手と同じ条件から開始しますし、空手であっても柔術であっても、自分も相手も等しくフラットな環境で戦いはスタートします。
一方で護身術が必要なときは、路上で突然不意に訪れます。背後から突然襲われることもあれば、暗闇であることもあり得ます。 前述のとおり、襲う側は常に自らが優位な状況を作って襲撃するものです。自分が危険に対してあらかじめ準備ができていることはなく、必ず不利な状況からスタートすると言っていいでしょう。
キックボクシングや総合格闘技などでは、1対1が原則、そして多くの場合、体重で階級が分けられ試合が組まれますので、相手との体格差はさほど大きくありません。
一方で路上で突然襲ってくる相手は、自分よりはるかに大きいかもしれませんし、場合によっては2人、3人いるかもしれません。 さらには何か凶器をもっていることもありえます。体力・体格差だけでなく、「最悪な事態」も想定しなければいけないのが護身術の前提です。
こんな不利な状況で相手に勝とうとしても、到底不可能なのは明らかです。 格闘技の多くが相手と条件が等しい中、一定のルールのもとで勝利することが目的なのに対し、護身術は自分が非常に不利な条件のもとで、 突然の危険から怪我することなく逃げること、または逃げるだけの時間を稼ぐことが目的なのです。
一定のルールのもとの戦いで専門的な技術を磨き、相手に勝てるように強くなりたいと考えるのであれば、自分にあった格闘技を選ぶことをお勧め致します。 一方で何のルールも無いストリートで起こりうる危険のもとで身を守るための技術を習得したければ、護身術を身につけるといいでしょう。
このページを記載しているマガジムは、護身術クラヴマガの専門ジム。「護身術」「クラヴマガ」と言うとおり、マガジムはクラヴマガを優れた護身術としてその技を教えています。
クラヴマガとは?>
しかし実は「クラヴマガ」はヘブライ語で「接近格闘術」(クラヴが「格闘」、マガが「近接」の意味)という意味。 つまり、クラヴマガはもともと護身術とは言ってなく、イスラエル軍向けの「格闘術」です。 ですので、軍におけるクラヴマガは、相手に勝つ、すなわち少々物騒ですが、仕留めることまでが目的化されます。 警察におけるクラヴマガであれば、相手を逮捕・拘束することが目的に含まれます。こうなると、完全に一般人向けの護身術の範囲を超えたものになってしまいますね。
つまりマガジムをはじめとした世界のクラヴマガの一般人向けジムは、軍人向け格闘術を、護身に必要なテクニックだけを抽出またはカスタマイズして一般人向けに護身術として教えているのです。
このように、もともと何らかの格闘技または格闘術であるものを、路上で起きうる「何でもあり」の危険から身を守ることに特化して体系化し、護身術と呼ばれている、 または護身術として教えられているものは、世界にも数多くあります。以下は格闘技や武道をルーツとしながら、護身術として教えらている、 世界でも代表的なものを抜粋しました。特徴はそれぞれ異なりますので、詳しくは個々のキーワードから検索のうえ、お調べ下さい。
またこれらとは別に、様々な格闘技や武道の経験を持った人が独自に、女性向けであったり子供向けであったり、対象を特化した形で護身術を教えている例は、 国内外問わず大変多くあります。それらには、主宰する人物の護身に対する考え方が色濃く反映されていることが多く多種多様ですので、ここでは紹介を省略致します。
マガジムの公式YouTubeチャンネルでは、では、護身術にまつわる動画を紹介しております。
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